これまで企業が業務システムを導入する場合、一般的には市販のパッケージやクラウドサービスを選び、自社の業務をシステム側に合わせてきました。
しかし、AIによるシステム開発が急速に進んだことで、この関係が変わったと感じます。
弊社でも、従来Google Workspaceのスプレッドシートベースで管理していた業務を、自社業務の内容をChatGPTとClaudeに読み込ませ、Google Apps Scriptで開発させて、自社の案件管理システムとして構築しています。
(※ChatGPTもClaudeもAI学習に利用されない法人向けの有料プランで契約しています)
システムの企画から1週間程度で実運用を開始しました。5年前では考えられない低コストでこの規模のシステムが構築できます。絞り込み検索もできますし、左側のメニューやアラート機能も充実してきました。

これからは「システムに業務を合わせる」のではなく、「自社の業務に合わせてシステムを作り、使いながら改善する」という選択肢が、中小企業にも現実的なものになっています。
ただし、すべての外部システムが不要になるわけではありません。今後重要になるのは、既製品を利用する領域と、自社で作る領域を適切に分けることです。

パッケージシステム導入の本当の負担
市販の業務システムには、導入実績、サポート、セキュリティ、法改正対応などの利点があります。
一方で、企業ごとに異なる業務へ完全に対応することは困難です。
その結果、システムに合わせて業務手順を変更したり、自社には不要な入力項目まで埋めたりすることになります。
足りない機能はExcelで補い、同じ情報を複数のシステムへ入力し直すことも少なくありません。さらに、現場でしか分からない例外処理が増え、本来は不要な確認作業も残り続けます。

本来の目的は業務を効率化することですが、実際には「システムを運用するための業務」が新しく生まれてしまうのです。
外部のシステム会社に構築してもらったシステムであれば、バージョンアップや機能改善に継続的に費用がかかるケースが多いです。
AIによって「要望からシステムまで」の距離が短くなった
これまでのシステム開発では、利用者の要望を聞き、要件定義書を作成し、設計し、プログラマーが実装し、テストするという長い工程が必要でした。
AIを活用すると、業務担当者との会話から、次の作業を連続的に進められます。
- 現在の業務を整理する
- 不要な業務を特定する
- 必要な機能を文章化する
- 試作品を作る
- 実際のデータで試す
- 問題を修正する
- 本番へ反映する
- 利用後の要望を追加する

仕様を最初に完全確定するのではなく、使いながら小さく改善する開発が可能になります。
Googleも、Google Apps ScriptをGoogle Workspaceと連携した業務アプリを素早く作るための開発基盤と位置づけています。ブラウザ上で開発でき、Googleのサーバーで実行できるため、小規模な社内システムを始めるハードルは以前より低くなっています。
ウェブロードの案件管理システムで見えた新しい開発方法
ウェブロードでは、GoogleスプレッドシートとGoogle Apps Scriptを使い、自社の案件管理システムを段階的に構築しています。

実際の業務を見ながら、少しずつ機能を積み重ねています。
現在までに、継続案件とスポット案件の管理、検索・担当者フィルター・並び替え、案件詳細画面といった基本の機能に加えて、請求・入金状況やドメイン・サーバー・SSLの管理、やり取りの履歴も扱えるようになっています。
さらに、保守作業のチェックリストを組み込み、期限未登録や要対応の項目を一目で分かるようにしたほか、担当者ごとのタスク管理も備えました。
ウェブロードでは、まずChatGPTにシステムの企画を作らせ、そこへ弊社の要望を入力して、開発用の指示書を作成させます。そして、その指示書をもとにClaude Codeへ実際の作業を任せるという流れで開発しています。
この進め方で、2026年秋のシルバーウイークの3日間で、完成度の高いシステムが組み上がりました。

WordPressと同じように、継続的なメンテナンスやアップデートを行っていく形となります。完成という状態はありません。
例えば、「月次レポート作成」というチェック項目について、いったん全ての案件で完了扱いにしていたのですが、実際の業務で月次レポートが必要なのは伴走サポートとSEOサイト改善&コンテンツ制作の案件だけで、通常の保守管理案件には不要でした。
後から指示をChatGPTに入れ直し、それを含めた改善指示書を作成させ、Claude Codeで再構築するという流れです。
一般的なパッケージシステムでは運用をパッケージに合わせる必要がありますが、自社構築なら、契約内容や社内ルールに合わせて簡単に、しかも契約中のAI利用料の範囲内で変更できます。
つまり、システムを作ったり改善したりする過程そのものが、業務を見直す機会になっています。
「AIに作らせる」ことより「AIと業務を整理する」ことが重要
AIは、指示された機能を速く実装できますが、不要な業務を指示すれば、不要な業務を効率よくシステム化してしまいます。
AI導入で最初に行うべきなのは、自動化ではなく、「この作業は、そもそも必要なのか?」と考えることです。
- この入力項目は、誰が何のために使うのか
- 同じ情報を別の場所にも入力していないか
- この承認は本当に必要か
- 問題がない案件まで毎回確認していないか
- 未入力と問題なしを混同していないか
- 担当者しか知らない判断基準がないか
- 例外処理は、現在も必要なのか
- データを蓄積した結果、どの判断を速くしたいのか
弊社の案件管理システムでも、「アラートが0件だから問題なし」と表示されていた箇所を調べると、実際には期限情報が未入力で、判定自体ができていないことが分かりました。
そこで「問題なし」「期限接近」「期限超過」「期限未登録」を分けて表示するようにしました。
これは単なる画面改善ではなく、会社の中で使っている「問題なし」という言葉の定義を、システムにも分かる形で明確にしたということです。
AI活用は増えているが、業務への組み込みはまだ少ない
IPA「DX動向2026」によると、AIを導入または試験利用している企業は58.0%に達しています。生成AIを「導入している」企業も、前年度の22.6%から44.0%へ急増しました。
一方、生成AIが「部署の業務プロセスに組み込まれている」と回答した割合は11.9%です。
この調査では、AI導入による効果の91.6%が「業務の効率化・迅速化」に集中し、「顧客満足度の向上」は4.5%、「売上や利益の向上」は3.9%にとどまっています。
今後は、AIで文章やプログラムを速く作ることから、AIを業務フローや顧客サービスへどう組み込むかに移っていくと考えています。
企業システムはすべて内製化されるのか
外部パッケージが完全になくなる可能性は低いでしょう。
会計、給与計算、決済、電子契約、勤怠管理などは、法改正、セキュリティ、監査、金融機関との接続が必要です。このような共通性が高く、間違えた場合の影響が大きい領域では、専門事業者のシステムを使う合理性が高いでしょう。
一方で、会社ごとのやり方が色濃く出る業務は、AIを活用した自社開発と相性が良いです。
自社独自の案件管理、顧客ごとに異なる進捗管理、社内確認のチェックリスト、保守期限や更新時期の管理などが代表例です。顧客対応履歴、営業から制作への引き継ぎ、見積・請求の補助、担当者別の次回対応管理、複数サービスから取得した情報の一覧化といった業務も、自社開発に向いています。
今後の企業の業務システムは、「共通業務は外部サービスを利用し、競争力につながる独自業務は自社で作り、両者をAIで接続する」という形になるでしょう。

これから価値を持つのは「プログラム」より「業務ルール」
AIによってコードを書くコストが下がると、企業にとって重要な資産も変わります。
どの顧客を優先するのか、どの状態を問題と判断するのか、誰が、いつ、何を確認し、どの作業をもって完了とするのか、どの情報を記録し、何を残さないのか、例外が発生したときに誰が判断するのか、こうした業務ルールこそが重要で、会社独自のノウハウになります。
従来は社員の頭の中やExcel、口頭での引き継ぎに存在していたルールを、AIとの対話を通じて明文化し、そのままシステムへ反映できるようになっています。
今後のシステム開発は「プログラミングの外注」ではなく、「会社の判断基準を整理する経営活動」へ変わっていきます。
AI時代でも、テストと管理はなくならない
AIがコードを書けるようになっても、システム管理が不要になるわけではありません。混乱した業務をそのまま渡すと、混乱まで拡大してしまいます。
そのため、自社開発では、少なくとも次が必要です。
- 本番データのバックアップ
- テスト環境と本番環境の分離
- 変更前後のデータ照合
- バージョン管理
- 権限管理
- 操作履歴
- 入力値の検証
- エラー時の復旧方法
- システム仕様と業務ルールの文書化
- AIが行った変更を人が確認する仕組み
弊社でも、変更前のバックアップ、テスト用URLでの確認、ハッシュ値によるコード照合、本番バージョンの記録、ロールバック先の確保を行っています。
AI時代には、コードを書く力以上に「安全に変更し、検証し、戻せる仕組み」が重要になります。

情報システム担当者の役割も変わる
社内システム担当者に求められる役割は「自分ですべてのコードを書くこと」ではなくなりました。
代わりに重要になるのは、現場の要望を整理し、不要な業務を見抜く力です。
業務ルールを文章にしてAIへ正確な指示を出し、出力されたシステムを検証する力も欠かせません。
プログラムコード作成より、むしろこちらの力のほうが圧倒的に必要です。
データと権限を管理し、改善の優先順位を決め、現場が実際に使える状態になるまで繰り返しテストし改善することが求められます。
業務に詳しい人がAIを使って設計や改善へ参加すれば、従来よりもかなりの少人数で自社独自システムを開発・構築できる可能性が高まります。
企業システムの未来は「完成品」ではなく「成長する仕組み」
これまでのシステム導入は、完成した製品を選び、数年単位で使い続ける考え方が中心でした。
これからは、必要な機能から小さく作り、業務の変化に合わせて修正する方法が増えていきます。
最初から完璧なシステムを作ることは不要で、現在の業務を見える化し、要らない作業を削って、最小限の機能を作って実際に使って、そこで見つかった問題をAIと一緒に改善し、変更履歴と判断理由を残していく循環を会社の中に持つことです。
企業システムは「購入して終わる設備」から、「業務とともに育つ会社の知的資産」へ変わります。
AIがもたらす最大の変化は、開発費を安くすることだけではなく、これまでシステムへ反映しにくかった現場の知識や判断基準を、自分たちで仕組みに変えられるようになることです。
WordPressをベースとした自社のWebサイトと生成AI開発によるシステム連携についても、様々な新しい手法を探っていきたいと考えています。
投稿者プロフィール

- 2004年頃の会社員時代からブログ作成を始める。ブログ作成が楽しくなり、そのまま趣味が高じて2006年にホームページ制作で起業、2008年に株式会社ウェブロードを設立。現在は、個人・中小事業者のWordPressサイト制作・改善を中心に、Web業界20年の知識と経験を生かして、自治体案件等の大型案件のWebディレクターや中小企業・個人事業主へのWeb全般のアドバイザー、SEO/AIOのコンサルタントとしても活動中。 プロフィールはこちら
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