WordPressのリニューアルをご依頼される際に、管理画面を拝見するとWordPressのマルチサイトという特殊な構成になっていることがあります。先日も、ある企業から保守のご依頼をいただいた際、コーポレートサイトが会社サイトと採用サイトの2サイトで、WordPressのマルチサイトになっていました。
前の保守会社から引き継がれた設定がそのまま残っていて、なぜマルチサイトなのか、社内でも把握されている方がいらっしゃらない状況でした。
バックアップを取るための準備を進めていきますと、そのサイトには有料のバックアッププラグインが導入されていて、年間で数万円のライセンス費用がかかるタイプのものでした。(All-in-One WP Migration Multisite Extension)
前の保守会社が契約されていたようですが、その契約がどうなっているかが分かる方もいらっしゃらず、その有料プラグインが使えるまで使うという状態だったのです。

このようなケースは、比較的会社規模の大きい企業様のサイトリニューアルや保守をお引き受けする中で出てきます。当時の担当者が良いと思って選んだ構成が、時間が経つにつれて「よくわからないけれど動いているもの」になってしまい、いざ触ろうとすると想定外の費用や複雑さが出てくる、というパターンです。
今回の記事では、そもそもマルチサイトとは何なのか、なぜ気をつける必要があるのか、そして今のままで良いのかを判断する視点をお伝えします。
マルチサイトをマンションに例えるとわかりやすい
WordPressのマルチサイトは、1つのWordPressの中で複数のサイトを一緒に運営できる仕組みです。少しイメージしにくい機能ですので、建物に例えてみます。
普通のWordPressサイト、つまり独立サイトは、戸建ての家のようなものです。1軒の家に1つの家族が住み、玄関も水道も電気もその家専用に備わっています。トラブルが起きてもその家の中で完結しますし、リフォームも自由にできます。
一方、マルチサイトは分譲マンションのようなものです。1つの建物の中に複数の部屋があり、それぞれ違う住人が暮らしています。玄関ホールやエレベーター、水道の元栓、電気の共用設備は全戸で共有されています。共用設備をまとめて管理できる便利さがある反面、共用設備で問題が起きると全戸に影響が出ますし、リフォームにも管理組合の許可のような制約が出てきます。

WordPressのマルチサイトは、まさにこのマンションの構造と似ています。
1つのWordPress本体を複数のサイトで共有し、データベースもプラグインもテーマも共通のものを使うという運用スタイルです。
例えば、大学が学部ごとに数十のサイトを持つ場合や、フランチャイズで店舗ごとにサイトを管理する場合など、同じ形のサイトを大量に運用したいときには非常に便利な仕組みになります。逆にそれ以外のケースでは、WordPressのマルチサイトにする理由がほぼないと思います。

なぜ気づかないうちにマルチサイトになっているのか
「うちのサイトがマルチサイトかどうかなんて、意識したこともなかった」という方がほとんどだと思います。実際、日常的にサイトの更新をされているだけでは、マルチサイトかどうかは意識もせず、見分けがつきにくい部分があります。
多いパターンとしては、過去にコーポレートサイトを制作した際、担当した制作会社が「将来的に採用サイトやブランドサイトを増やす想定」でマルチサイトとして構築していた、というパターンです。
あるいは「同じサーバーで複数サイトを効率的に管理したい」という要望を制作会社に伝えて、その理由でマルチサイトが選ばれたケースもあります。
ところが実際には、当初想定していたほどサイトが増えなかったり、担当者が変わって当時の打ち合わせ内容が引き継がれなかったりして、コーポレートサイトと人材採用サイトや日本語サイトと英語サイトの2つだけがマルチサイトで動いている、という状態がそのまま残っていることがよくあります。
マルチサイトに潜む3つの落とし穴
マルチサイトの構造には、運用していく中で気をつけたい3つのポイントがあります。

1つ目は、バックアップと復元が複雑になるという点です。
通常のWordPressサイトであれば、無料のバックアッププラグインで簡単にデータを保存して復元することができます。ところがマルチサイトの場合、複数のサイトが同じデータベース内で複雑に絡み合っているため、対応しているプラグインが必要になり、便利さを求める場合は年間で数万円の費用がかかることが一般的です。
2つ目は、片方のサイトのトラブルが全体に波及しやすいという点です。
マンションでたとえるなら、1階の部屋で水漏れが起きたら建物全体に影響するのと似ています。プラグインの更新でエラーが出た場合、片方のサイトだけでなく、同じマルチサイト内の他のサイトも一緒に影響を受けます。コアのWordPressをアップデートするときも、すべてのサイトが同じバージョンで動くため、片方だけ古いバージョンで様子を見るということができません。
3つ目は、プラグインの選択肢が狭くなるという点です。
世の中のWordPressプラグインは、実はマルチサイトに対応していないものが少なくありません。マルチサイトで使いたいプラグインを選ぼうとすると、まず「マルチサイト対応」という条件で絞り込む必要があり、使えるプラグインの幅が狭まります。
独立サイトにすると何が変わるか
もし今マルチサイトで運用されているサイトを、独立したWordPressサイトに切り替えた場合、いくつかの具体的なメリットが出てきます。

まず、バックアップと復元が普通のプラグインで完結するようになります。無料のプラグインで十分に対応できるようになります。
次に、トラブルの影響範囲が限定できます。採用サイトで何か不具合が発生しても、コーポレートサイトには影響が出ません。逆にコーポレートサイトの更新中も、採用サイトは何事もなく動き続けます。
サーバーへの負荷も分散できます。マルチサイトはすべてのアクセスが同じWordPressに集中しますが、独立させれば負荷を分けられるため、サイト全体の表示速度の安定にもつながります。
そして、それぞれのサイトの性質に合わせて、自由にテーマやプラグインを選べるようになります。コーポレートサイトはシンプルで信頼感のあるデザイン、採用サイトは若手向けにインパクトのあるデザイン、といった具合に、目的に合わせて柔軟に運用できます。
マルチサイトのままで良いかを見直す3つの視点
もし今、マルチサイト構成のサイトを運用されている場合、以下の3つの視点で一度確認してみてください。

1つ目は、そのマルチサイトには何サイトが同居しているかという規模の視点です。
10サイトを超えていて、同じ組織内で同じテーマ・同じプラグイン構成で運用されているのであれば、マルチサイトである意義は大きいと思います。逆に2〜3サイト程度で、それぞれ性質が異なるのであれば、独立させる選択肢を検討する価値があります。
2つ目は、なぜマルチサイトにしたのかの経緯が、社内でわかっているかどうかという視点です。「前の担当者が構築したので理由がわからない」という状況であれば、当初の想定と今の実運用がずれている可能性が高いです。
3つ目は、有料の維持費用が発生していないかという視点です。マルチサイト用の有料プラグインを使っている場合、その費用は独立サイトに切り替えれば不要になる可能性があります。
ただし、有料プラグインをマルチサイト対応以外の目的(大容量サイトのバックアップ、増分バックアップ、暗号化など)で使っている場合は、独立サイトに切り替えても費用は継続します。切り替え後に必要な機能を洗い出した上で、無料プラグインで代替可能かを確認することが大切です。
シングルサイト化する場合の流れ
もし独立サイト化を進める場合、いくつかの段階を踏んで進めていくことになります。単に「サブサイトを別の場所に移すだけ」ではなく、コンテンツの再設計も含んだプロジェクトになります。

まず、現状のマルチサイトの構成を詳しく調査します。何サイトがぶら下がっているのか、それぞれのURLの構造はサブドメイン型なのかサブディレクトリ型なのか、どんなコンテンツがどれくらいあるのか、といった全体像を把握します。
次に、切り出したサブサイトを、独立したWordPressサイトとして新しく立ち上げるのか、本体サイトの中に統合するのかを設計します。ここが実は一番大切な部分で、コンテンツの性質や運用のしやすさを踏まえて、お客様と丁寧にすり合わせを行います。
そして、旧URLから新URLへのリダイレクト設定を必ず行います。検索エンジンからの流入や、外部のサイトから貼られている被リンクの評価を落とさないための、非常に重要な作業です。
テーマやデザインの調整も入ります。独立させた際に、既存のデザインをそのまま活かすのか、この機会に統一していくのかで作業ボリュームが変わります。
最後に、WordPress本体からマルチサイト機能を解除し、データベース内の不要なテーブルを整理して完了となります。
こうした移行作業は、サイトリニューアルのタイミングに合わせて実施すると、無駄が少なくスムーズに進みます。
デザインを刷新するタイミングで、あわせて構造も見直せば、二度手間になりません。逆に、リニューアルの予定がない場合でも、有料プラグインの更新時期を目安に判断されると、費用対効果を考えやすくなるかと思います。
今日からできる簡単な確認方法
まずは、ご自身のサイトの管理画面にログインして、ダッシュボードの左上あたりに「参加サイト」や「サイトネットワーク管理」といったメニューが表示されているかを確認してみてください。
もし表示されていれば、そのサイトはマルチサイト構成になっています。
マルチサイトだった場合、内部にいくつのサイトが動いているか、それぞれ何のために作られたのかを社内で整理してみてください。
サイトの運用は、時間とともに前提が変わっていきます。前の担当者が良かれと思って選んだ構成が、今のフェーズには合わなくなっていることも珍しくありません。
定期的に「今の運用に本当に合っているか」を見直すことで、無駄な費用や運用リスクを減らすことができます。
投稿者プロフィール

- 2004年頃の会社員時代からブログ作成を始める。ブログ作成が楽しくなり、そのまま趣味が高じて2006年にホームページ制作で起業、2008年に株式会社ウェブロードを設立。現在は、個人・中小事業者のWordPressサイト制作・改善を中心に、Web業界20年の知識と経験を生かして、自治体案件等の大型案件のWebディレクターや中小企業・個人事業主へのWeb全般のアドバイザー、SEO/AIOのコンサルタントとしても活動中。 プロフィールはこちら
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